2018年11月1日木曜日

「ウユウス」の正体:その2

 
文庫本で見つけた「んっ?」という違和感。
まずはラテン語の原典に当たるも、玉砕。
 
だが、僕らには英語がある!
 
 
 
そういえば、そもそも翻訳書だった
 
すっかり忘れていたのだが、
読んでいた文庫本はもともとアメリカで出版されたものなのだ。
 
ダメ元で、文庫本の英書を
Googleブックスで検索してみると……あった。


 
Is God a Mathematician? ──Googleブックス 
 
2011年の刊行で、全ページ閲覧可でもないので、
やたらと画像を貼るのはやめておく。
 
 
 
さて、ニュートンの原書で試したのと同じように、
マリオ・リヴィオ氏の英語原書でも「この書籍内を検索」窓を使用する。
『プリンキピア』に触れている箇所なので、
まずは素直に principia と入れてみよう。
 
22件のヒット。
この本の中ではニュートンの生涯についてしっかり描かれているので、
当然その名著のタイトルはヒット数も多い。
 
principia で22件ヒット


先の記事でも引用したが、『プリンキピア』部分の和訳は、こうだ。
 
この太陽、惑星、彗星の壮麗きわまりない体系は、全知全能の存在の深慮(コンシリウム)と支配(ドミニウム)によって生ぜられたとしか考えようがありません。また、もし恒星がほかの同様な体系の中心であるとしたら、それらも同じ全知の意図のもとに形作られ、すべて〝唯一者(ウユウス)〟の支配に服するものでなければなりません。

4章であることも踏まえ、
ノンブルを気にしつつじっと見ていくと、
 
おお……あった、あった。
 
が!
肝心の箇所がプレビューできない!
 
権利の関係ェ…


しかし何が書いてあるかは、このままでも見られる。
ほんの一部分ではあるが、
すなわちこれが、
『プリンキピア』の英訳部分である。
 
This most beautiful system of the sun, planets and comets, could only proceed from the counsel and dominion of an intelligent and powerful Being.  And if the fixed stars are the centers of ...

これを、まるごと、Googleブックスの通常検索にかけてみる。
すると、『プリンキピア』の英訳書が見つかるというわけである。
 
英訳書 The Mathematical Principles of Natural Philosophy ; Translated by Andrew Motte 1848 ──Googleブックス

英訳書。これは1848年のもの

 
ところで、
これをお読みの方の中には、
 
「最初から『プリンキピア』の英訳書を参照して、
ラテン語の単語を探せばよかったではないか」
 
そうお思いの方もいるだろう。
 
 
確かに問題の箇所には、
太陽( sun )、恒星( fixed stars )、体系( system )など、
相当する英単語がサッとわかる言葉が多くあり、
恐らくはこんな回り道をせずともたどり着けたかもしれない。
 
 
しかし、それすらも、
私のスタンスからすると、やみくもに思えてしまう。
 
 
あくまでも、
根拠のある明確な手がかりを軸に据えて、
あちら、こちらとジグザグにフィールドを替えながら、
手がかりの持つ根拠から逸脱しないように調べていく。
そのルートは守りたい。
 
手当たり次第な手段に頼るとしても、
それは、まだまだ先のことだ。
 
 
 
「唯一者」は、書物全体のどのあたりにあるのか
 
さて、『プリンキピア』英訳書である。
文庫本に引用されていた箇所が、『プリンキピア』の第何章にあるのか、
本のどのあたりなのか、それを調べよう。
 
 
上記に掲げたのは1848年のものであるが、
(よく見ると、米ブルックリン付近で発刊されたことがわかる)
この訳者 Andrew Motte 氏が英訳書を出したのは、
1729年(ロンドン)のことだそうだ。
文庫本の巻末にある、リヴィオ氏による参考文献リストを見ても、
1729年発刊のものを収録した書物を底本にしているとある。
 
 
ふたたびの余談となるが、
それより前の1727年には、別の人が英訳書を出している。
だが今日にいたるまで、Motte 氏のものが強く支持されている。
よほどの名訳ということになる。
 
 
 
底本がわかったので、
リヴィオ氏が間接的に参照したのと同じ、
1729年の英訳書にフィールドを移そう。
 
また同時にラテン語の原書のほうもフィールドを替え、
今後は初版ではなく、
Motte 氏が翻訳のために使用したと思われる
第3版(1726年刊)を参照する考えである。
 
 
英訳書の初版は、2巻構成となっている。
 
The Mathematical Principles of Natural Philosophy, 第1巻 1729    Googleブックス
 
1729年刊の英訳書、第1巻

The Mathematical Principles of Natural Philosophy, 第2巻 1729   
Googleブックス

1729年刊の英訳書、第2巻

 
ここで「おや?」と思った方、鋭い。
 
  「ラテン語の原書は、何巻構成だったのだろうか?」
『プリンキピア』ラテン語原書は、3巻構成だ。
  
  「では、前記事で検索したのは、第何巻だったのか?」
全巻、検索した。
 
  「???」
 
 
 
驚くべきことに、『プリンキピア』原書には、
全3巻がまるっと一冊の本として綴じられている。
 
補強や再製本のときに、全部を一冊に合わせたものが
現在に伝わっているのかと思ったら、そうではない。
最初から、通しノンブルが入っている。
 
前記事で挙げた1687年初版本では、
たとえば第3巻部分は401ページから始まっている。(下図参照)
 
3巻部分は401ページから


  
よって、探している文言が、巻数の違いで
発見できなかった、ということはない。念のため。
 
 
 
気を取り直して、『プリンキピア』英訳書1729年刊に戻る。
 
 
 
問題の箇所の英訳を、1巻、2巻でそれぞれ
「この書籍内を検索」窓で探してみる。
 
すると、2巻でヒット。
 
美しい言葉が並ぶ

 
 
文庫本の和訳に相当する部分の、全文はこうだ。

This most beautiful System of the Sun, Planets and Comets, could only proceed from the counsel and dominion of an intelligent and powerful being.  And if the fixed Stars are the centers of other like systems, these being form'd by the like wise counsel, must be all subject to the dominion of One ;

ラストの One というのが、「唯一者」であろう。
この文で間違いない。
リヴィオ氏の原書 Is God a Mathematician? では
権利の関係で確認できなかった箇所だ。
 
 
 
『プリンキピア』英訳書内での場所を確認しよう。
pp388~389、Book III と見える。
すなわち、
ラテン語原書の3巻部分、Liber Tertius にあるということだ。
 
 
ノンブルは同じではないだろうので、位置を比率で探す。
 
 
英訳書1729年刊の Book III の物量は、
第2巻のpp200~393で、194ページ。
すなわち、Book III の後ろから2.5%のところで
検索がヒットしている。
 
ラテン語原書の第3版(1726年刊)Liber Tertius の物量は、
pp386~530で、145ページ。
上記の比率からして、pp526~527付近かと思われる。
 
ラテン語1726年刊の第3版トビラ

 
 
1726年の第3版で、そのあたりを見ると……、
 
なにやら、節の切れ目がある。
SCHOLIUM GENERALE と書いてある。
 
ラテン語の第3版pp526-527


 
英訳書のほうの該当ページ付近で、
同様の節がないか見てみると、もちろん、あった。
p387に、General Scholium と書かれている。
 
英訳書p387

  
くだんの「唯一者」の箇所は、p388付近にあったので、
この節の中ということになる。
 
 

いよいよだ。
追い詰めている手応えを感じる。
 
 
 
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