2018年11月30日金曜日

「1インチ=2.538cm」由来推考:その1

 
ひょんなことから、
1インチは正確に2.54cmなのだと知った。
 
1959年に発効した国際ヤード・ポンド法が根拠となって、
以来ずっと正確に2.54cm。
というか、
英米では実は1930年代から、ずっと正確に2.54cm。
それより前の1800年代にも、工業インチは2.54cm。
 
 
だけど、私、
ずっと1インチ=「約」2.54cmだと思っていた。
 
というのも、
印刷所に勤めていたとき(2000年ごろ)に
「1インチ=2.538cm」と覚えたからだ。
 
今からすると、どうして2.538cmだったのか、もうよくわからない。
私がそう覚えている理由は、
印刷所にあった度量衡の換算表にそうあったからだ。
……たぶん。
 
 
しかし、
実はそんな昔から1インチは正確に2.54cmだったのだと知ると、
かつて会社で見た換算表に
1インチ=2.538cmと記載されていた(かもしれない)ことが、
たいそう不思議に思えてくる。
 
……なんで、2.538だったんだろう? (´・ω・`)
 
国際ヤード・ポンド法で定められた内容をつぶさに見ても、
こうと定められる前の数値をさまざま調べても、
そんな半端な数字が出てくる理由がわからないのだ。
 
……ホントに、2.538だったのかな? (´;ω;`)
 
 
 
その一方で、Wikipedia を見ると、
1インチは正確に2.54cmなのに、
新聞などで「約」2.54cmという表記を見かける、と
書いてあった。
物書きの皆さんの中に、「約」をつけたい、
つけるべきと思う人が一定数いるらしい。
 
……えっと、あの、
2.538も、約2.54なのであってですね! ( ・`ω´・ )人( ・`ω´・ )
 
 
 

そもそも「2.538」は本当にあるのか


プロの記者さんやライターさんが「約」をつけたくなる理由については、
ここで予想を展開するのはやめておく。
本音を言えば、2.538派?の私としては
記者さんらが何のために「約」2.54cmとしているかについては
むろん興味津々ではある。
 
だが、そこに切り込む有力な情報もない。
おそらく、 出版社や新聞社の自社ルールの関係などもあるのだろう。
 
 
 
ここでは、前段で掲げた、
2.538という数字はどこから来たか」
を調べたい。
そもそも私の記憶違いのおそれもあるので、
まずは、そんな数値が本当にあるのかも含めての調査だ。
 
  
 
インチは日本ではなじみが薄い単位であるので、
これはなかなか日本語で調べられるものではない。
そこで、インチの本場である英語の出番だ。
 
まずは調査の定番、Google ブックスだ。
ある程度の根拠を求めるなら、書籍を検索するのがいい。
ここで出てきた情報は、
ネットでふつうに検索したものよりも確度が高いという点において、
多くの人に納得いただけると思う。
 
Google ブックスで、ズバリ、
 
inch 2.538
 
このキーワードで検索。
すると、なんと、たちまちヒット!!!
 
さらに、結果1000冊のうちたった一冊、
明確に 1 inch = 2.538 cm としているものがあった。
たったの一冊ではあるが、これほど明らかなものもあるまい。
 
Commodity Plastics - as Engineering Materials? :
A Report from Rapra's Industry Analysis and Publishing Group, 1995
  Google ブックス

  
さらっと

やっぱり、2.538はあったんだ!
父さんは嘘つきじゃなかったんだ!
 
……と、無邪気に心躍らせるかたわらで、
ちょっと、あまりにも、さらっと書かれていることに驚く。
 
えっと、これ1995年の本だよね?
1959年に、国際ヤード・ポンド法が発効して……
インチは正確に2.54cmって決まって……アレッ? 
 
 
「1インチ=正確に2.54cm」と知ってしまった今となっては、
「1インチ=2.538cm」と書いてあっても
それを素直に受け入れられない部分がある。
 
国際ルールと違うけど、断り書きは不要なのかな?
この業界では、この数値がふつうなのかな?
 
……すっかり落ち着かない気分になってしまった。
 
 
 
一応、この本をもう少しよく見てみよう。
  
本書は、工業用途における汎用プラスチックの
有用性などについてのレポートのようで、
英国で出版されたものだ。
日本でも繊維系の大学では
これを使った授業が行われることもあるらしい。
 
 
さて、
検索結果の周辺はこうなっている。
  
3.3.7 熱可塑性プラスチックの特性について

この次のページからは、
ポリカーボネート樹脂とかABS樹脂とかの
さまざまなデータがしばらく続く。
この換算係数は、そのデータを読みやすくするための配慮だろう。
 
 
上図で、下部のパラグラフは
換算の数字を載せるに当たっての解説だ。こう書いてある。
 
Wherever possible the actual property values have been attained by a recognised ASTM standards test method.  The following conversion factors have been included so that the quoted measurement units can be changed into other familiar units.
 
実際の特質の値は可能な限り、ASTMの標準検査で得られたもの(を載せている)。(データにある)単位を身近なものに変換できるよう、下に換算係数を示す。 

ASTM は国際的な工業規格を作成する米国の機関で、
この本が出た1995年には
American Society for Testing and Materials(米国材料試験協会)
という名だった。(現在は ASTM International
 
 
えー、でもさー。
せっかくそんな権威ある機関が算出したデータなのに、
この本が示している換算係数は
それを換算するのに十分な確かさがあるとはいえないのでは?
 
だって、
この係数は、1959年の国際ヤード・ポンド法に基づいた
「1インチ=正確に2.54cm」ではない。
断り書きも根拠もない、
なぜか "1 inch = 2.538 cm " だもの。
 
 
それともなんだろう、
これだけ「説明不要のシンプルさ」感を
醸し出すからには、 実はけっこう、
それが通用してしまっている実態でもあるのだろうか?
 
 
 

国の下部組織の広報書類でも 


実は、そうらしいのだ。
「1インチ= 2.538cm」は想像以上に当たり前っぽいのだ。
 
 
ネヴァダ大学を拠点とする、
米国農務省の出先機関の広報書類に、
こんなのを見つけた。
 
University of Nevada Cooperative Extension > Agriculture Publications
Conversions for Commonly Used Weights and Measures (PDF)
  
  
度量衡の換算のための係数一覧表だ。
農務省関連の機関ということで、
長さや重さの単位を重要視しているのは理解できる。
 
本文に書いてあることはこうだ。
 
Formulas for converting measurements:
The following formulas can be used to convert from one unit of measure to another. Additionally, there are several electronic conversion calculators available on the Internet. Simply use the key words "conversion calculator" on any search engine. (To make opposite conversions, divide by the number given instead of multiplying.)
度量衡換算のための公式:
下記の公式は単位を他の単位に換算するのに便利である。加えて、ネットにはいくつかのオンライン計算機がある。「度量衡換算」と簡単なキーワードで検索できる。(反対方向に換算したい場合は、下記の係数を使用して掛け算ではなく割り算をする)

では、肝心の部分をアップにしてみよう。
おわかりいただけるだろうか。
 

インチをcmに直すための係数は、
2.538
 
インチをmmに直すための係数は、
25.400
 
 
ちょ、待って。
一覧表で上下に隣り合った、この係数の違い。
これを不自然とは感じないってこと?
そこまで、
「1インチ=2.538cm」が収まりがいいってこと?
 
 
この広報書類には、
責任の所在として2人の人物の名前が記されている。
調べたところ、
Ron Torell 氏は、同大の同機関に26年勤務した家畜と農環境開発の専門家。
Bill Zollinger 氏は、オレゴン州立大学における同機関の、
家畜と牛肉の普及事業の専門家だ。
 
こうした人々をはじめ、
多くが上の表を不自然に感じないということは、
「1インチ=2.538cm」には
それだけの説得力がある、
もしくは、
大多数がこの数字に親しんでいる、
という解釈が成り立つということになってくる。
 
 
 
 
 
ここまで調べてきて、
「1インチ=2.538cm」が私の記憶違いでないことはわかった。
ちゃんと、あったんだ。
このことは、すごく嬉しい。
父さんは嘘つきじゃなかっ(しつこい)。
 
 
……だけど、素直に喜べない。
 
 
例えて言うなら、
幼い頃によく遊んだ友達に再会して
懐かしさで胸がいっぱいになったのも束の間、
実はそいつが魔王になってた件、みたいな。
 
幼馴染だし友達のままでいるつもりだけど……
てか、よりによって魔王かよ……。
 
えっ?
自分でも魔王になっちゃった理由がわからない?
調べてくれ???
 
 
 

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