2018年7月25日水曜日

ことばの「意味の範疇」

 
今日から水星逆行です。
ことば、情報、交通などの不具合に注意です。
いつもよりオオゴトな誤解や不達があったら、
水星逆行のせいにしちゃいましょう。
  
そんなさなか、ことばについて思いを馳せています。
 
かつての職場、新聞社の校閲部での会話です。



ある気難しい人と組んで仕事を始めたときのこと。
チーム発足から1週間後にメンバーみんなが上司に呼ばれて、
「どんな感じ?」とインタビューを受けました。
 
なごやかに雑談まじりで話す中、私は
「会話をしていて思うんですが、あることばを発したとき、
そのことばに対してどのような意味を想像するか、という
『意味の範疇』が、互いにあまり重なっておらず、
内容がスムーズに伝わらないことがあります」と発言しました。
 
そのとき、「ウンウン、あるあるだね」と上司がうなずく一方で、
その気難しい彼がすごく意外そうな顔をしていたのが忘れられません。
(どの点がそんなに意外だったのかは、
メンドクサイので確かめませんでしたが。)
 
 
 
「意味の範疇」というのは、人それぞれ違います。
人はあることばに触れたとき、文脈・前後関係を考慮すると同時に、
自分の育った環境や読んだ本などのバックグラウンドによって、
そのことばからどのような意味をすくいあげるか、
どのような印象を持つかを決めています。 
 
前述の「気難しい人」は、
その「意味の範疇」が私とはだいぶズレていました。
その例として、覚えていることがあります。
 
  
「気難しい人」は職場で私の隣のデスクに座っていました。
隣なので仕事の合間に雑談もします。
どういう話の流れからだったか、彼は、自分の腕時計を
「高校生のときから使っている」と話してくれました。
私は素直に感心して
「物持ちがいいのですね」と相づちを打ったところ、
彼はなんと
「そんなに貧乏くさいですかね?」とこわばった顔をしたのです。
私は内心のけぞりました。
 
彼は、いわゆる「なんでも悪い意味に受け取る人」でもないですし、
いつも自分を卑下しているようなタイプの人でもありません。
それどころか、すさまじい自信家でした。
 
照れ隠しでそういうことを言うような人でもなかったので、
私はこれを
「ああ、こんなにも『意味の範疇』が違うんだ」
と結論づけました。
かつ、
「彼は、ことばに対して持っている『意味の範疇』が、比較的狭いのでは?」
とも思いました。
そこから、「気難しい人」という印象もできあがりました。
 
 
そのときからは、彼と話すときは、
誤解を招かないような表現を心がけました。
彼が普段どんなことばをどんな意味で用いているかをじっくり観察し、
まねっこ感がない程度に工夫しながら、
彼の表現に合わせて会話するようにしたのです。
 
 
 
 人と自分は違う。
 表現の正確さ、ことばの正確さも大切だけど、
 本当に求められているのは、
 内容が誤解なく伝わるかどうか、
 情報がちゃんと伝わるかどうか、です。
 
 私が「こう」と思って発言したことが、
 相手にも同じように「こう」と受け取られるとは限らない。
 相手と自分は同じ人間ではない。
 相手にちゃんと伝わらないのは、
(相手の短慮や不誠実も時にはありますが) 
たいがい、
自分の表現が相手にとってわかりにくいためなのだと、
そう思っていたほうが、この世は平和です。
 
 
水星逆行しています。順行に戻るのは、8月18日です。
 
 
 


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