2014年5月16日金曜日

中国・寧夏回族自治区の民話『金の亀』

 
 昔々、ある大きな山のふもとに、働き者で心優しい若者が住んでいました。若者は早くに両親に死なれ、とても貧しくてお嫁さんをもらうゆとりもないほどでした。
 
 その日も若者は、山に柴刈りをしに出かけました。お昼時、お腹がすいたので、若者はお弁当のパン2つを食べようと、仕事の手を休めました。
 すると、若者の背後から声がします。
「この老婆に、なにか食べるものを分けてくれないかい」 
 
 若者が振り向くと、みすぼらしい老婆が立っていました。
 見れば、その腕は枯れ木のように痩せています。若者はかわいそうに思い、持っていたパンを2つともあげました。老婆はそれを受け取ると、礼も言わずに立ち去りました。
 
 翌日、若者はパンを4つ山に持って行きました。案の定、またあの老婆が現れました。
 若者がパンを2つあげると、老婆はその場でそれを食べ終え、残りの2つもくれと言います。若者は空腹をこらえながら、すべてあげてしまいました。
 
 若者は家に帰ると、小麦の袋に残っていた粉の半分を使って、大きなパンを焼きました。
 そして3日目には、老婆に言われる前にそれを差し出しました。
 ところが老婆はそれを食べずに、谷へと投げ捨ててしまいました。
 若者が目を丸くしているうちに、谷底から大きな爆発音がして光がひらめき、どこからともなく金色の亀が老婆の腕に降りてきました。
 
 老婆は微笑みながら若者に告げました。 
「近いうちに、ここを大きな災害が襲うだろう。お前は心のやさしい若者だから、助けてあげよう。
 この亀を連れて行きなさい。亀の目が赤くなったら、災害が来るということだよ。もしそうなったら、ここから北西にある、蓮の花が咲く湖に逃げなさい。そこなら安全だ。
 でも、誰にもこのことを話してはいけないよ。話せばお前は石になってしまうだろう」
 そう言うと、老婆は小さなハチに姿を変え、飛び去ってしまいました。
 
 若者はその後も、変わらず山に仕事に出かけました。長い間、何事も起こりませんでした。
 もうすぐ村のお祭りだというころ、若者は亀の目が赤くなっていることに気づきました。
 
 若者は大慌てで荷物をまとめ、村の北西にあるという蓮の湖に逃げようとしました。
 そのとき、亡くなったお母さんの言葉がとつぜん胸によみがえってきました。
「どんなときも、人様の役に立つことをするのですよ」
 だけど村人に話せば、石にされてしまいます。 
 
 若者は悩んだすえ、村人に災害のことを話しました。
 祭りの準備で盛り上がっている村人は誰も若者の話を信じてくれません。
 でも、若者が事の次第を話し、金色の亀の目が赤くなっているのを見せながら必死に説得すると、みんなやっと信じてくれました。
 
 村人みんなが蓮の湖に到着すると、すさまじい大音声がして、まるで空が落ち、地が沈むような光景が広がりました。豊かだった村は、一瞬で荒れ野になってしまいました。
 亀も金色の光となって、若者の手から空に消えていきました。
 
 おびえていた村人たちが我に返ったとき、若者の姿がないことに気が付きました。
 蓮の湖のほとりに、ちょうど人の身の丈ほどの石柱が立っていました。
 村人たちは若者の供養のために松の木をたくさん植えました。
 
 寧夏回族自治区のとある湖に、今もそれが残っているそうです。
 
出典:
Mythology and Folklore of the Hui, A Muslim Chinese People
pp155-157 「Naxigaer
http://books.google.co.jp/books?id=gvPOAPar9XUC&pg=PA155

 

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